「売上は増えたのに利益が残らない」「自社の粗利率は業界平均より低いのか」と、工務店の収益性に悩んでいませんか。平均と比較するときは、まず工事の粗利と会社全体の営業利益を分けて確認しましょう。
木造建築工事業の2024年度調査では、粗利率に相当する完成工事高総利益率の平均は27.2%ですが、売上高営業利益率の平均はマイナス1.8%です。同じ業種でも、どの段階の利益を見るかによって数字は大きく異なります。
この記事では、工務店経営者や経理・営業責任者に向けて、平均利益率の読み方と、自社の目標設定に使える計算方法を解説します。後半では、見積もり、追加工事、原価管理を見直す具体策も紹介します。
工務店の利益率の平均は?最初に確認したい業界データ
工務店の利益率を調べる際は、自社の主力事業に近い業種の数字から確認してください。ここでは木造住宅を扱う工務店の比較対象として、木造建築工事業を取り上げます。
紹介するのは、2025年8月に公表された2024年度の調査データです。調査年度と公表時期は異なるため、数字だけでなく、いつの調査で、どの企業を集計しているかまで確認することが大切です。
木造建築工事業は粗利率27.2%、営業利益率はマイナス1.8%
木造建築工事業361社の集計では、完成工事高総利益率の平均が27.2%、中央値が24.0%でした。売上高営業利益率は平均マイナス1.8%、売上高経常利益率は平均マイナス1.3%となっています。
一方、黒字かつ自己資本がプラスの企業116社に限ると、粗利率の平均は29.1%、営業利益率は4.0%です。比較対象を変えるだけで水準が変わるため、「工務店なら営業利益率4%が平均」と条件を省いて説明するのは適切ではありません。
ここで押さえたいのは、全体平均をそのまま経営目標にしないことです。営業赤字の平均を上回っていても、自社が赤字なら、事業を継続するための改善は必要になります。
自社の数字を確認するときは、粗利率だけで安心せず、そこから会社運営の費用を引いた後にいくら残るかまで計算しましょう。平均は現在地を確かめる材料として使い、最終的な目標は自社の費用と必要利益から決める、という順序がおすすめです。
平均値・中央値・調査対象をそろえて比較する
この調査は、融資先のうち従業者50人未満の法人企業を対象としており、全国すべての工務店を網羅したものではありません。また、平均値は各社の指標の単純平均であり、対象企業の売上と利益を合算して求めた利益率とは異なります。
中央値は数値を順に並べたときの中央の値で、極端に高い、または低い数値の影響を受けにくい指標です。平均値との開きを見ることで、単一の数字では捉えにくい分布にも目を向けられます。
自社比較では、まず木造住宅の新築、改修、専門工事のうち、どの事業の採算を調べたいのかを決めましょう。複数事業を営む会社なら、会社全体の利益率に加えて事業別の粗利率も出すと、改善する部門を絞り込めます。
例えば、新築部門の利益低下を改修部門が補っている場合、全社平均だけを見ても新築部門の問題は見えません。比較表には利益率だけでなく、対象期間、事業内容、売上規模、原価に含めた費用を書き添え、翌年も同じ条件で確認できる形にしておきましょう。
粗利率・営業利益率・経常利益率の違いと計算方法
平均利益率を経営改善につなげるには、自社で使う利益の定義を統一しておきましょう。「利益率が25%ある」という報告だけでは、工事の採算を示すのか、会社全体の利益を示すのか判断できません。
会議資料や案件管理表には、粗利率、営業利益率などの名称を省略せずに記載することをおすすめします。以下の計算例はすべて税抜金額の仮定であり、実際の比較でも売上と費用の税込・税抜をそろえてください。
粗利率は工事の採算を見るための指標
粗利益は売上高から売上原価を差し引いた金額で、粗利率は「粗利益÷売上高×100」で計算します。建設業で工事の採算を見る場合は、完成工事高から完成工事原価を差し引いた利益と、その割合を確認します。
例えば、売上3,000万円の工事に対し、対応する工事原価が2,250万円なら、粗利益は750万円です。粗利率は750万円÷3,000万円×100で25%となります。
注意したいのは、この750万円がそのまま会社に残る最終利益ではないことです。さらに営業活動や事務所運営などの費用を負担するため、案件の粗利益と会社全体の利益は分けて管理する必要があります。
社内の管理表を作る際は、材料費や外注費だけでなく、自社施工にかかった労務費、現場経費をどこまで含めるかも決めておきましょう。例えば、現場ごとの採算表で自社職人の費用を含めない場合は、その表を「直接費のみ控除した管理用粗利」と明記し、決算上の粗利と混同しない運用にしてください。
営業利益率は本業の収益性、経常利益率は金融費用なども含めて見る
営業利益は粗利益から販売費及び一般管理費を差し引いたもので、営業利益率は「営業利益÷売上高×100」です。経常利益は営業利益に営業外収益を加え、支払利息などの営業外費用を差し引いたもので、経常利益率も売上高を分母にして計算します。
仮に年間売上高が3億円、粗利益が7,500万円、販管費が6,600万円なら、営業利益は900万円です。この場合の粗利率は25%ですが、営業利益率は3%にとどまります。
さらに営業外収益をゼロ、支払利息などの営業外費用を300万円と仮定すると、経常利益は600万円となります。経常利益率は2%であり、同じ会社でも粗利率との間に23ポイントの差が生じます。
経営会議では、粗利率が低いのか、販管費の負担が重いのか、金融費用が利益を圧迫しているのかを順番に確認しましょう。工事担当者には案件別粗利益、経営者には全社の営業利益と経常利益を共有すると、誰が何を改善すべきかを話し合いやすくなります。
工務店が目標にすべき利益率は平均ではなく必要利益から決める
平均を把握したら、次に考えたいのは「自社にはいくらの利益が必要か」です。売上の見込み、会社運営の費用、今後の採用や設備更新の計画を置き、必要な利益率を逆算してみましょう。
目標値は、経営者が期待する売上だけを前提にしないことが重要です。受注済み案件を基にした計画と、売上が計画を下回った場合の試算を並べれば、値上げ、費用見直し、受注構成の変更について具体的に検討できます。
販管費と目標営業利益から必要粗利率を逆算する
ここでは目標設定の例として、年間売上高3億円、年間販管費6,000万円、目標営業利益1,500万円の工務店を考えます。必要な粗利益は販管費と目標営業利益の合計7,500万円で、必要粗利率は25%になります。
この条件では、「必要粗利率=(販管費+目標営業利益)÷売上高×100」と整理できます。25%は業界共通の適正値ではなく、この会社の売上・費用・利益目標を置いて計算した結果です。
次に、売上高が2億5,000万円まで減り、販管費と目標営業利益を変えない場合を試算しましょう。必要な粗利益は同じ7,500万円なので、必要粗利率は30%に上がります。
この差を確認したうえで、単価を見直すのか、販管費を抑えるのか、受注内容を組み替えるのかを検討してください。採用や拠点拡大を予定している場合も、増える費用を先に計画へ入れ、現在と同じ粗利率で目標を達成できるか試算しておきましょう。
なお、ここで求めたのは損益計算上の目標であり、資金の余裕を保証する数字ではありません。返済や設備購入の予定は別の資金計画に落とし込み、会計上の利益と必要資金を分けて確認してください。
損益分岐点と利益率1ポイントの効果を確認する
損益分岐点売上高は、利益がゼロになる売上高で、「固定費÷限界利益率」で求めます。限界利益は売上から変動費を差し引いたものであり、工事原価に固定的な人件費などが含まれる場合、粗利益と同じ金額にはなりません。
仮に年間固定費が6,000万円、限界利益率が25%なら、損益分岐点売上高は2億4,000万円です。自社で試算するときは、原価と販管費という会計上の区分だけでなく、売上に応じて変動する費用かどうかも確認してください。
利益率改善の効果も、金額に直してみると判断しやすくなります。年間売上高が3億円で変わらない場合、粗利率を25%から26%へ1ポイント改善できれば、粗利益は300万円増えます。
一方、粗利率25%のままで同額の粗利益を増やすには、計算上1,200万円の追加売上が必要です。どちらの案でも追加の費用が発生しないという仮定なので、実際には営業費用や施工体制の負担も加えて比較しましょう。
新規受注を増やす案と、既存案件の見積もり精度を高める案を、利益額と必要な作業時間で比べてみてください。売上拡大だけに目標を置かず、自社が実行できる改善策を選ぶための判断材料になります。
工務店の利益率を下げる原因を見積もりと現場管理から点検する
自社の必要利益率が分かったら、次は実際の案件との開きを確認しましょう。受注時点で利益が足りなかったのか、着工後に原価が増えたのかを分けると、対策の方向が明確になります。
ここでは、見積もり時の価格設定と、施工中の変更管理という二つの場面を取り上げます。単純な仕入れ値の引き下げだけに頼らず、契約前に必要費用を計上し、工事中の変更を正しく把握する方法から検討してください。
原価への上乗せ率と粗利率を混同しない
見積もりでは、「原価に25%上乗せすること」と「粗利率25%を確保すること」を区別してください。例えば原価2,000万円に25%を上乗せすると販売価格は2,500万円ですが、粗利益500万円を売上で割った粗利率は20%です。
原価2,000万円で粗利率25%を確保したい場合、販売価格は2,000万円÷0.75で約2,667万円となります。「販売価格=原価÷(1-目標粗利率)」を使い、目標粗利率は25%なら0.25として計算します。
値引きの影響も、売上ではなく利益額まで確認しましょう。売上3,000万円、原価2,250万円の案件で、原価を変えずに150万円値引きすると、粗利益は750万円から600万円へ20%減ります。
こうした試算を踏まえ、値引き承認では値引き後の粗利益額と粗利率を必ず確認する運用を提案します。顧客の予算に合わせる場合も、同じ仕様のまま価格だけを下げる案と、設備や施工範囲を調整する案を分けて比較してください。
見積書を作る担当者ごとに計算方法が違わないよう、社内の計算式と承認基準も統一しておきましょう。価格調整の理由を残しておけば、失注回避のための値引きが本当に必要だったのかを後から検証できます。
追加工事と原価増加を完成前に把握する
工事の原価管理では、実行予算と実績を比べるだけでなく、完成までに必要となる費用も見込むことが重要です。支払済みの金額だけを追うのではなく、最終的にどれだけ利益が残るかを確認する視点を持ちましょう。
具体的には、案件ごとに発注済み金額、未発注部分の見込額、追加作業の予定額を記録する方法を提案します。例えば、予算に入っていなかった補修作業が判明した時点で見込み原価を更新し、請求書が届くまで放置しない運用にしてください。
仕様変更についても、変更内容だけでなく、金額、納期への影響、顧客との確認状況を一緒に記録しましょう。追加費用を請求するか判断できていない作業は、通常の工事費と分けて把握しておくと、対応漏れを点検できます。
例えば、設備の変更を相談された場合は、商品の差額だけでなく、再手配や施工変更に必要な費用まで試算してから説明する形が考えられます。合意した内容を関係者で共有し、営業担当と現場担当が異なる前提で作業を進めないようにしましょう。
費用削減案を検討するときも、安全や品質に必要な工程は維持することを前提にしてください。まずは重複発注、伝達漏れ、手戻りなど、提供価値を下げずに減らせる負担から見直す方針がおすすめです。
平均比較を利益改善につなげる工務店の管理手順
利益率を調べた後は、数字を確認する担当者とタイミングを決めて、日常の業務に組み込みましょう。ここでは、案件単位での振り返りと、会社全体での月次確認を組み合わせる方法を提案します。
最初から多くの指標を管理しようとせず、受注額、見込み原価、粗利益、販管費から始めてください。入力作業そのものを目的にせず、数字を見た後に誰が何を変えるかまで話し合える仕組みを目指しましょう。
受注時・施工中・完成時の粗利益を同じ案件で比較する
案件管理では、受注時の予定粗利益、施工中の完成見込み粗利益、完成後の確定粗利益を並べて記録する方法をおすすめします。実行予算と実績・完成見込みを照合する考え方を、営業から現場、経理まで共通の管理表に落とし込むイメージです。
例えば、受注時の予定粗利益が750万円、完成後が600万円なら、差額150万円を費目ごとに確認してください。材料費の増加、外注範囲の変更、追加作業の未請求などに分け、当初から分かっていた費用か、施工中に生じた費用かも記録しましょう。
当初から想定できた費用なら、次回の見積もり項目や数量確認の方法を見直す課題として扱います。施工中の変更なら、変更を把握してから見積もり・承認・発注するまでの手順に問題がなかったかを確認してください。
振り返りは、利益が低かった担当者を責める場ではなく、次の案件で同じ損失を繰り返さないための場にしましょう。原因を「管理不足」の一言で終わらせず、「搬入条件を契約前に確認する」など、実行できる作業へ置き換えることが大切です。
最初は直近の完成案件から数件を選び、同じ書式で整理してみてください。記録項目を絞って試し、原因の特定に役立った項目を残す進め方なら、自社の業務に合った管理表を作れます。
月次で利益額と資金繰りを確認し、改善策を一つずつ実行する
会社全体の確認では、粗利率だけでなく粗利益額、販管費、営業利益を同じ期間で並べましょう。管理用の集計と決算上の数字に差がある場合は、計上時期や費用区分を経理担当者と確認し、比較条件をそろえてください。
また、利益の計算と資金の動きは分けて確認する必要があります。建設業の管理では工事代金の入金と支払いの予定にも目を向け、利益が出ているかに加えて、必要な時期に資金を確保できるかを点検しましょう。
実務では、今後の入金予定と材料費・外注費の支払予定を月別に並べ、入金が遅れた場合の資金残高も試算する方法が考えられます。受注を増やす計画を立てる際も、先行する支払いに対応できるかを合わせて検討してください。
改善策は、担当者と期限を決めて一つずつ実行しましょう。例えば、今月は値引き後の粗利確認、翌月は追加工事の記録、その次は見込み原価の更新というように、実施状況と効果を追える単位に分けます。
工務店の平均利益率は、経営判断の出発点であって、目標そのものではありません。自社に必要な利益を逆算し、案件ごとの利益差額を把握し、その原因を次の見積もりと現場管理へ反映することから始めてください。
よくある質問
工務店の粗利率が25%なら十分ですか?
25%という数字だけでは、十分かどうかを判断できません。例えば年間売上高3億円、粗利率25%なら粗利益は7,500万円ですが、販管費が6,000万円なら営業利益は1,500万円、7,200万円なら300万円です。
同じ粗利率でも、会社運営の費用によって残る利益が変わります。まず年間の販管費と目標営業利益を置き、必要な粗利益額を計算してください。
その金額を無理のない売上計画で割り、自社の目標粗利率を設定する方法がおすすめです。
原価に30%上乗せすれば粗利率30%になりますか?
原価への上乗せ率と、売上を分母にする粗利率は異なります。例えば原価1,000万円に30%を上乗せすると販売価格は1,300万円ですが、粗利率は300万円÷1,300万円で約23.1%です。
粗利率30%を確保したい場合は、原価を0.7で割り、販売価格を約1,429万円に設定する計算になります。社内では「原価への上乗せ率」なのか「売上に対する粗利率」なのかを明記し、見積もり担当者と承認者が同じ計算方法を使うようにしてください。
案件ごとの粗利率を平均すれば会社全体の粗利率になりますか?
案件の売上規模が異なる場合、粗利率の単純平均では会社全体の粗利率を正しく計算できません。例えば売上3,000万円・粗利率20%の案件と、売上1,000万円・粗利率40%の案件では、粗利益の合計は1,000万円です。
売上合計4,000万円で割った全体の粗利率は25%であり、20%と40%の単純平均である30%とは異なります。月次や年度の集計では、同じ期間に対応する売上と粗利益をそれぞれ合計してから、全体の粗利率を計算してください。
利益率が低いときは売上を増やすべきですか?
売上を増やす案だけでなく、既存案件の粗利益を改善する案も比較してください。仮に年間売上3億円で粗利率が1ポイント上がれば、粗利益は300万円増えます。
同じ金額を粗利率25%の追加受注で確保するには、計算上1,200万円の売上が必要です。ただし、どちらも追加費用を考慮していない試算です。
実際には営業活動や施工管理に必要な費用・時間を含め、利益がいくら増えるかを確認しましょう。見積もり漏れや値引きの影響を点検することから始める方法もあります。
工務店の利益改善は何から始めればよいですか?
最初は、直近に完成した数件の工事について、受注時に予定した粗利益と完成後の粗利益を並べてみてください。差額が出た案件では、材料費、外注費、追加作業などに分けて原因を確認します。
そのうえで、見積もり項目の追加、変更内容の記録、発注前の予算確認など、実行できる対策を一つ選びましょう。会社全体では販管費と目標営業利益も整理し、必要粗利益額を計算してください。
数字の区分が分からない場合は、決算書と案件別原価表を用意して顧問税理士などに相談するとよいでしょう。
